『天外者』を撮影したのは、京都松竹撮影所。僕のデビュー作、『化粧師』(原作・石の森章太郎)もこの撮影所で撮りました。
無謀にもコマーシャルの世界からやってきた僕は、右も左も分からないまま、監督としてデビュー作を撮った思い出の撮影所。
そして映画監督として沢山の事を学んだのもこの撮影所でした。
初めて時代劇の主演を務める三浦春馬くんにとっても、「撮影所で時代劇を撮る」というのは少し緊張があったようです。
殺陣の練習や芝居の練習を積み重ねていくうちに、彼の人柄と映画に賭ける春馬くんの情熱が、
撮影所の人達やスタッフの気持ちを動かしていきました。
まだ撮影所に行く前の打ち合わせの時、「どうして京都松竹撮影所を選んだのですか?」と春馬くんに聞かれた事がありました。
撮影所は、奥が深い。この時代劇を撮るならこの物語の雰囲気を持ったオープンセットがある京都松竹撮影所。
そして、そこにいる時代劇を熟知したスタッフも凄い人達が沢山いる。
そう、話をしながらクランクインの日を迎えました。
初日、二日目といい雰囲気で迎えた三日目。
春馬くん、演じる五代才助が模型の船を浮かべて、
「イッツ パーフェクトじゃ!」というシーンのこと。
動力で動く模型ではなくこんな舟が浮かんでいました。
実はこの舟、20年前僕のデビュー作『化粧師』に登場した精霊舟。
もう今では名人となった装飾の中込秀志さんの粋な計らいです。感動。
春馬くんが、「どうしたんですか?」と尋ねてきたので、
デビュー作で使った舟が、『天外者』の模型の船の代わりに登場している事を伝えると、
顔をクシャとして笑いながら、
「奥が深い!撮影所好きになりましたよ」と答えた春馬くんの掛け値なしの笑顔に、やられた。
今更ながら思い出しています。
古くから続く撮影所には、こんな粋な計らいをしてくれる素敵な映画人がいるのです。
田中光敏拝